大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和59年(わ)59号 判決 1984年7月03日

裁判所書記官

水谷吉秋

本籍

神戸市中央区神仙寺通二丁目四番

住居

同市同区神仙寺通二丁目四番二号

団体役員

佐竹勝

昭和二年九月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官岡本誠二出席のうえ審理して次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、神戸市中央区琴ノ緒町一丁目九番八号に事務所を置き「ヴアイバ総合経済研究所」の名称を用い、いわゆる総会屋として、賛助金収入を得るとともに、政治団体自由民主関西協議会からの給与所得を得ていたものであるが、所得税を免れようと企て

第一  昭和五五年分の実際の所得金額が四九一三万五五八三円(別紙甲の(1)、(2)及び(3)を参照)で、これに対する所得税額が二三八七万一六〇〇円であるにもかかわらず、賛助金収入を除外し、これによって得た資金を自己の土地の購入資金及び建物の新築工事代金に充てるなどの行為によりその所得の一部を秘匿した上、同五六年三月四日、神戸市中央区中山手通三丁目七番三一号所在の所轄神戸税務署において、同税務署長に対し、右政治団体自由民主関西協議会からの給与所得のみであって、その所得金額が三二七万円で、これに対する所得税額が二五万五六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同五五年分の所得税二三六一万六〇〇〇円を免れ

第二  昭和五六年分の実際の所得金額が四六一四万七八四一円(別紙乙の(1)、(2)、(3)及び(4)を参照)で、これに対する所得税額が二一八九万六〇〇〇円であるにもかかわらず、賛助金収入を除外し、これによって得た資金を自己及び家族名義の定期預金とするほか、有価証券の購入資金に充てるなどの行為によりその所得の一部を秘匿した上、同五七年三月五日、前記神戸税務署において、同税務署長に対し、前同様給与所得のみであって、その所得金額が三二七万円で、これに対する所得税額が二五万三三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同五六年分の所得税二一六四万二七〇〇円を免れ

第三  昭和五七年分の実際の所得金額が三五九九万八五三一円(別紙丙の(1)、(2)、(3)及び(4)を参照)で、これに対する所得税額が一五五九万八六〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿した上、同五八年三月七日、前記神戸税務署において、同税務署長に対し、前同様給与所得のみであって、その所得金額が二四三万円で、これに対する所得税額が一三万四一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同五七年分の所得税一五四六万四五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書及び収税官吏に対する質問てん末書六通

一  佐竹菊江の検察官に対する供述調書

一  上野山善也の収税官吏に対する質問てん末書

一  平田松治、吉見博司(二通)、松浦常夫、堀田福夫、尾形直賞、峠博男、柴崎忠、星野悟、高継俊和、杉本門平、鳥山俊次、竹田一男、藤川浩司、梶田庸夫、丸谷三郎、疋田修一、小川英幸、溝口房五郎、牧山功、佐々木一、三木昌行、島田昌明、堤力男、中村良蔵、斎藤淳、福井康雄、森井英隆、大西義史及び寺田定治の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の昭和五八年一〇月一一日付、同年一一月一九日付、同月二六日付、同年一二月一〇日付(二通)、同月一五日付(三通)、同月一六日付(五通)、同月一七日付(二通)、同月一九日付、同月二〇日付、同月二四日付、同月三一日付、同五九年一月一一日付及び同月一二日付(二通)各査察官調査書

一  株式会社第一ホテル営業管理部クレジット課長作成の確認書

一  押収してある黒色手帳四冊(昭和五九年押第一三〇号の1及び2)、同住所録四冊(同押号の3)、会社名記載大学ノート三冊(同押号の4)及び同会社住所録一冊(同押号の5)

判示第一の事実につき

一  喜井日出夫の収税官吏に対する質問てん末書

一  収税官吏作成の同月一〇日付査察官調査書

一  収税官吏作成の脱税額計算書(自昭和五五年一月一日至同年一二月三一日のもの)

一  神戸税務署長作成の証明書(五五年分の所得税の確定申告書のもの)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の脱税額計算書(自昭和五六年一月一日至同年一二月三一日のもの)

一  神戸税務署長作成の証明書(五六年分の所得税の確定申告書のもの)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の脱税額計算書(自昭和五七年一月一日至同年一二月三一日のもの)

一  神戸税務署長作成の証明書(五七年分の所得税の確定申告書のもの)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、昭和五六年法律五四号附則五条により同法による改正前の所得税法二三八条一項、所得税法一二〇条一項三号に、判示第二及び第三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に各該当するが、情状により判示第一の罪については改正前の所得税法二三八条一項・所得税法二三八条二項に、判示第二及び第三の各罪については同法二三八条一項・二項により、それぞれ懲役及び罰金を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金一八〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、昭和四四~五年ころから「ヴアイバ総合経済研究所」を設け、上場会社を相手に「ヴアイバ経済展望」の新聞等を発行するなどし、いわゆる「総会屋」として上場会社から賛助金等名目で受取った事業所得がある被告人において、自己申告納税制度を利用し、その事業所得が同五五年分・四五八六万五五八三円、同五六年分・四二八七万七八四一円、同五七年分・三三五六万八五三一円あるのにその一切の収入を隠匿し、自由民主関西協議会からの給与支給証明書を基に給与収入のみの同五五年分・三二七万円、同五六年分・三二七万円、同五七年分・二四三万円の所得税の確定申告をなしたにとどまり、右三年間に合計一億二二三一万余円の事業所得を秘匿し、それに対する合計六〇七二万余円の所得税をほ脱したという事案であり、そのほ脱額は高額で、かつ、ほ脱率も極めて高いこと、自己申告納税制度においては、課税所得の算定などにあたり、納税者による合法、非合法な手段による税負担を回避及び軽減する機会が多いことから、脱税が発覚したときは、単に国庫の受けた損失を補てんすれば足りるという財政収入確保のためだけの制裁にとどまらず、国民相互間の租税負担の公平を侵害するものとしての見地からそれなりの厳しい処罰が必要であること、そのため、脱税が発覚したときには、ほ脱額以上の過大な金銭的負担(損失)を招くという危険意識を与えることにより納税倫理意識の一層の覚醒強化をはかり、国民相互間の租税負担に対する不公平感が解消されないまでも緩和されなければならないと思われること、被告人は同四四~五年ころから「総会屋」として給与所得以外の事業所得があるのに、その所得を申告するならば多額の税金が課税されることからその一切を秘匿して申告せず、その収入を預金などにし、株式及び不動産の購入資金に費消していたこと、犯行の動機は、自由民主党の外郭団体である自由民主党大阪同志会の一員として閣僚の警護に当るなどして活躍中のところ、他の政治活動家から納税をしていない旨を聞かされるに及んで、自分は国のために奉仕活動しているのだから納税しなくても許されると思ったというものであり、真に自己中心的なもので、到底許されるものではなく、かえって、被告人らの如き国民こそ、一般国民に率先して正しい納税の模範を示す立場にあるのに、その犯行の計画性及び態様も悪質であることなどの諸点を併せ考慮するとき、被告人の刑事責任には厳しいものがあるといわなければならない。

しかしながら、他方、収税官吏は、被告人の本件取調べの過程において、「ヴアイバ総合経済研究所」への賛助金等のほか、被告人が主宰する「自由民主関西協議会」が政治資金規正法に規定された政治団体としての設立届及びその収支報告書が自治大臣に提出されてはいるものの、その収入簿、支出簿の備えがなく、収入報告における収入額が適当な額として算出されていたもの-(被告人の同五八年一二月一三日付質問てん末書参照)であることから多数の関係者の事情聴取をおこなっている(結局、同協議会の収入は被告人の収入から除外されている)ものの、被告人は「ヴアイバ総合経済研究所」の賛助金等の収入については事実をすべて自供し、公判廷においても、納税の義務を悟り反省していること、現在では修正申告をなし、そのうち本税を全納し、延滞、加算税及び県市民税については分納などしてきており、その完納を誓っていること、その他被告人のために酌むべき一切の事情を考慮のうえ、主文掲記のとおり量刑し、懲役刑についてはその刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 重村和男)

甲-(1) 修正貸借対照表(総所得)

租税犯の類型

過少申告脱税犯

昭和55年12月31日現在

<省略>

甲-(2) 修正貸借対照表

租税犯の類型

過少申告脱税犯

昭和55年12月31日現在

<省略>

甲-(3) 修正損益計算書(利子所得)

租税犯の類型

過少申告脱税犯

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

乙-(1) 修正貸借対照表(総所得)

租税犯の類型

過少申告脱税犯

昭和56年12月31日現在

<省略>

乙-(2) 修正貸借対照表

租税犯の類型

過少申告脱税犯

昭和56年12月31日現在

<省略>

乙-(3) 修正損益計算書(利子所得)

税犯の類型

過少申告脱税犯

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

丙-(1) 修正貸借対照表(総所得)

租税犯の類型

過少申告脱税犯

昭和57年12月31日

<省略>

丙-(2) 修正貸借対照表

租税犯の類型

過少申告脱税犯

昭和57年12月31日現在

<省略>

丙-(3) 修正損益計算書(利子所得)

租税犯の類型

過少申告脱税犯

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例